AGA治療、特にフィナステリドやデュタステリドといった内服薬による治療を考えたとき、必ずセットで語られるのが「肝臓」への影響です。なぜ、髪の毛の治療が、内臓である肝臓と関係するのでしょうか。その答えは、私たちが口から摂取した薬が体内でどのように処理されるか、という「薬物代謝」の仕組みにあります。体内に取り込まれた薬の成分は、血液に乗って全身を巡り、目的の場所で効果を発揮した後、最終的には体外へ排出されなければなりません。この、薬を分解し、無毒化して排出しやすい形に変えるという重要な役割を担っているのが、まさに肝臓なのです。肝臓は、アルコールや食事から得た栄養素の代謝だけでなく、体にとって異物である薬を処理するための、人体最大の化学工場とも言えます。AGA治療薬も例外ではなく、その有効成分は主に肝臓に存在する「CYP3A4」などの代謝酵素によって分解されます。つまり、薬を服用するということは、この化学工場である肝臓に一定の仕事を依頼することと同義なのです。通常、健康な肝臓であれば、この仕事は問題なくこなすことができます。しかし、もともと肝臓の機能が低下している場合や、他の薬との兼ね合い、あるいは体質によっては、この仕事が肝臓にとって大きな負担となり、機能障害を引き起こす可能性がゼロではありません。だからこそ、AGA治療を安全に進めるためには、自分の肝臓の状態を正しく把握し、その声に耳を傾けながら、適切に付き合っていくことが何よりも重要になるのです。