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なぜ治療前に血液検査が必須なのか
AGA専門クリニックで治療を開始しようとすると、ほぼ全てのケースで、まず初めに血液検査を受けるよう指示されます。これは、単なる形式的な手続きではなく、あなたの健康を守り、安全な治療を行うための、極めて重要なプロセスです。その最大の目的は、AGA治療薬を服用しても問題ない体調であるか、特に「肝機能」の状態を事前にチェックすることにあります。前述の通り、AGA治療薬は主に肝臓で代謝されるため、治療を開始する前に、あなたの肝臓が薬を分解する仕事をこなせるだけの体力を持っているかを確認する必要があります。もし、自覚症状がないまま肝炎や脂肪肝などが進行しており、肝機能が低下している状態で薬の服用を始めると、肝臓に過剰な負担がかかり、深刻な肝機能障害を引き起こすリスクが高まってしまいます。血液検査では、主に「AST(GOT)」、「ALT(GPT)」、「γ-GTP」といった項目を測定します。これらは肝細胞の中に含まれる酵素で、肝細胞がダメージを受けると血液中に漏れ出してきます。つまり、これらの数値が高い場合は、肝臓が何らかの理由で炎症を起こしているサインなのです。治療開始前にこれらの数値を測定し、正常範囲内にあることを確認することで、初めて安全に治療をスタートできます。また、この最初の検査データは、治療開始後の状態変化を比較するための「ベースライン」としても非常に重要です。治療を進める中で数値に変動があった場合、このベースライン値と比較することで、それが薬の影響によるものなのかを判断する材料になります。医師の管理を介さない個人輸入などでは、この最も重要な安全確認のステップが完全に抜け落ちてしまいます。血液検査は、安全な航海に出る前の、いわば船体の点検作業なのです。
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気になる副作用その発現割合はどのくらい?
AGA治療薬が高い効果を持つ一方で、多くの人が懸念するのが「副作用」の存在です。一体、どのくらいの割合で副作用は発生するのでしょうか。この点についても、臨床試験によって詳細なデータが示されており、正しい知識を持つことで、過度な不安を和らげることができます。まず、内服薬のフィナステリドやデュタステリドで最も懸念されるのが、性機能に関する副作用です。フィナステリドの国内臨床試験では、主な副作用として「リビドー(性欲)減退」が1.1%、「勃起機能不全」が0.7%の割合で報告されています。デュタステリドでは、それぞれ4%前後と少し高めの数値が報告されています。これらの数字だけを見ると不安になるかもしれませんが、重要なのは、これらの試験では偽薬(プラセボ)を服用したグループでも、一定の割合で同様の症状が報告されているという点です。薬の成分とは関係のない心理的な要因なども含まれている可能性があり、実際の薬理作用による副作用の割合は、この数値よりも低い可能性が考えられます。また、もう一つ報告されている副作用に「肝機能障害」があります。発生割合としては0.2%程度と非常に稀ですが、ゼロではありません。だからこそ、治療前後の血液検査で肝機能の状態をチェックすることが、安全な治療のためには不可欠なのです。外用薬のミノキシジルについては、最も多い副作用は塗布した部分の「皮膚炎(かゆみ、発疹、ふけなど)」です。これは数%の割合で発生するとされています。重篤な副作用は稀ですが、もともと血圧の薬であったため、動悸やめまいなどが起こる可能性も指摘されています。そして、多くの人が経験するのが「初期脱毛」です。これは治療開始後1ヶ月前後で一時的に抜け毛が増える現象で、副作用というよりは、乱れたヘアサイクルが正常化する過程で起こる好転反応とされています。副作用の割合は決して高くはありませんが、万が一に備え、医師の管理下で治療を受けることが、安心して治療を続けるための絶対条件と言えるでしょう。
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ミノキシジル外用薬なら肝臓は安心?
AGA治療には、フィナステリドやデュタステリドといった内服薬の他に、ミノキシジルを主成分とする外用薬(塗り薬)も広く用いられています。内服薬が肝臓で代謝されることを知ると、「塗り薬なら肝臓への負担はないのでは?」と考える方も多いでしょう。この考えは、概ね正しいと言えます。ミノキシジル外用薬は、頭皮に直接塗布し、毛根に作用させることを目的として設計されています。有効成分は主に頭皮の血管から吸収され、局所的に血行を促進し、発毛を促します。体全体を巡る内服薬とは異なり、肝臓を経由して代謝される量はごくわずかです。そのため、一般的に、ミノキシジル外用薬の使用が肝機能に重大な影響を及ぼす可能性は非常に低いと考えられています。健康な人が用法用量を守って使用する限り、肝臓への負担を過度に心配する必要はないでしょう。しかし、注意点が全くないわけではありません。まず、頭皮に傷や湿疹などがある場合、そこから有効成分が想定以上に吸収され、血中濃度が高まる可能性があります。また、極めて稀ですが、体質によってはごく微量のミノキシジルにも体が反応し、副作用(動悸、めまい、むくみなど)が現れることがあります。もともと重篤な肝機能障害や心臓、腎臓に疾患がある方は、使用前に必ず医師に相談すべきです。そして、最も重要なのが、同じミノキシジルでも「内服薬(ミノキシジルタブレット)」は全く別物であるという点です。ミノキシジルタブレットは、全身の血管を拡張させる作用があり、当然ながら肝臓で代謝されます。そのため、フィナステリドなどと同様に、肝機能への影響を十分に考慮する必要があります。外用薬と内服薬、それぞれの特性とリスクを正しく理解し、自分の状態に合った治療法を選択することが大切です。