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薄毛対策は食べ物だけで十分なのか
これまで見てきたように、薄毛対策において、日々の食べ物がいかに重要であるか、お分かりいただけたかと思います。髪の材料となるタンパク質、その合成を助ける亜鉛、そして、頭皮環境を整えるビタミン群。これらの栄養素を、バランス良く摂取することは、健康な髪を育むための、絶対的な土台です。では、食生活さえ改善すれば、薄毛の悩みは、すべて解決するのでしょうか。残念ながら、その答えは「ノー」です。食べ物は、あくまでも、薄毛対策という、大きなプロジェクトの一部に過ぎません。その効果を最大限に引き出し、本当の意味で、髪の悩みを克服するためには、食事以外の、様々な生活習慣との、総合的なアプローチが不可欠なのです。例えば、あなたがどんなに髪に良い食事を心掛けていたとしても、毎日、睡眠時間が4時間程度であれば、どうでしょうか。髪の毛が最も成長する、夜間の「成長ホルモン」の分泌が、著しく妨げられ、せっかく摂取した栄養素も、十分に活用されることはありません。また、デスクワークで一日中座りっぱなし、全く運動する習慣がない、という生活を送っていれば、全身の血行は滞り、頭皮の毛細血管は、栄養不足のゴーストタウンと化してしまうでしょう。さらに、日常的に、強いストレスに晒され、常に交感神経が優位な状態にあれば、血管は収縮し、ホルモンバランスは乱れ、頭皮環境は悪化の一途をたどります。そして、もし、あなたの薄毛の原因が、遺伝的な要因の強い「AGA(男性型脱毛症)」であった場合、食事療法だけで、その進行を完全に食い止めることは、極めて困難です。その場合は、専門のクリニックで、医師の診断のもと、フィナステリドやミノキシジルといった、科学的根拠に基づいた、適切な薬物治療を受ける必要があります。食事改善は、いわば、荒れた土地を、肥沃な土壌へと改良する作業です。しかし、その良い土壌に、種を蒔き、水をやり、日光を当て、雑草を抜く、といった、他の様々なケアが伴って初めて、豊かで美しい作物は実るのです。食べ物という土台の上に、質の良い睡眠、適度な運動、ストレス管理、そして、必要であれば専門的な治療を、積み重ねていくこと。その総合的な視点こそが、あなたを、薄毛の悩みから、本当に解放してくれる、唯一の道筋なのです。
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ミノキシジルとフィナステリド、初期脱毛の違い
AGA治療における二大治療薬、「ミノキシジル」と「フィナステリド」。この二つは、作用機序が異なるため、初期脱毛の起こり方や、そのメカニズムにも、若干の違いがあると考えられています。「攻めの治療薬」であるミノキシジルは、頭皮の血行を促進し、毛母細胞そのものを直接活性化させることで、発毛を促します。そのため、ミノキシジルによる初期脱毛は、非常にダイレクトで、分かりやすい「ヘアサイクルのリセット」によって引き起こされます。ミノキシジルの強力な刺激によって、休止期に留まっていた毛根が一斉に活性化し、新しい髪の毛の生産を開始します。そして、その新しい髪が、古い髪を力強く押し出すことで、一時的に抜け毛が増加するのです。効果が強力な分、初期脱毛の現れ方も、比較的はっきりと、そして早く(治療開始2〜4週間後)感じられることが多いようです。一方、「守りの治療薬」であるフィナステリドは、AGAの原因物質である、脱毛ホルモン「DHT」の生成を抑制することで、薄毛の進行を食い止めます。フィナステリドの作用は、ミノキシジルに比べて、より穏やかです。DHTの攻撃から解放された毛根が、徐々に本来のヘアサイクルを取り戻していく過程で、弱っていた髪が抜け落ち、新しく健康な髪へと生え変わっていきます。そのため、フィナ-ステリドによる初期脱毛は、ミノキシジルに比べて、その始まりが少し遅く(治療開始1ヶ月後以降)、抜け毛の増加も、比較的マイルドである、と感じる人が多いようです。中には、フィナステリドの服用では、初期脱毛をほとんど感じなかった、という人もいます。ただし、これらはあくまで一般的な傾向です。初期脱毛の有無や、その程度は、個人の体質や、薄毛の進行度によって、大きく異なります。初期脱毛が起こらなかったからといって、「薬が効いていない」というわけでは、決してありません。重要なのは、どちらの薬を使うにしても、初期脱毛は「治療が順調に進んでいる証拠」である可能性が高い、という事実を、正しく理解しておくことです。